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第1部 二章【闇メン】その2 第伍話 ラッキーボーイ

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-10-18 18:30:00

14.

第伍話 ラッキーボーイ

 給料を受け取った後は少し寄り道をしてから帰るようにした。

 勝田台に来るのは久しぶりなのでせっかくだから駅前をウロウロしてみたかった。まだ時刻は午後6時半だ。あまり知らない土地に行くということが椎名は大好きだったので、この派遣裏メンという仕事はぴったりだった。

 明日の行き先は西船橋だと言う。下車したことがない全く知らない土地だ、そういうのが一番ワクワクする。

 ――翌日。

 西船橋到着。駅から10分ほど歩いた先にある雀荘『ラッキーボーイ』今日の行き先はそこだった。

 しばらく歩いていたら遠くに見える雑居ビルにそれらしき店の看板を発見した。知らない土地に降りて、初めて入る雀荘に上がるその階段を登る時のドキドキは麻雀打ちにしか分からないだろう。

 カツン、カツン、カツンと雑居ビルの階段に革靴が響く。

 重い鉄扉に小さく『ラッキーボーイ』という札がある。ここで間違いない。

ガキン! ガシャ。ギイイイイ……

 かなり扉が重い。油を差したほうがいいなと思った。

「いらっしゃいませー!」

「4名様ですか?」

「いえ、フリーです」

 このやりとりを何回したかわからない。椎名はフリー客に見えないような優しくて大人しい見た目をしているのだ。もちろん優しくて大人しいフリー客だっているが、基本的ににはそれは珍しい。

「失礼ですが当店のご利用はお久しぶりでしょうか?」

「いえ、初めてです」

「初めてのご利用、まことにありがとうございます。お飲み物は何かお持ちしますか?」

「あ。じゃあアイスコーヒーをミルクだけでお願いします」

「アイスコーヒーミルクだけですね。かしこまりました。待ち席ご新規さんまでアイスコーヒーミルクだけお願いします!」そう言うと、レジにいたもう1人が

「アイスコーヒーミルクだけですね。かしこまりました!」と口上をあげる。従業員マニュアルがしっかりした店であることがうかがえる。

「はい、アイスコーヒーミルクだけです。お待たせしました」

「それではルールの説明をさせていただきます」

「あ、いえ。ルールはあらかじめホームページで調べてきましたので完全に把握してます」

「あ、左様でございますか! それはありがとうございます。当店のホームページを閲覧してご来店された方は2ゲームサービスとさせていただいております。では名前の登録だけお願いして、それが終わりましたら今ラス半の入ってる卓が南2局です。そちらにご案内させていただきますね」

(あ、まいったな。ゲームサービスされちゃうよ。あとで返そう)

────

「それではゲームお待ちの椎名さまお待たせいたしましたこちらの卓へどうぞ!」

 いかにもベテランという雰囲気の3人がそこにはいた。

「こちら、当店ご新規の椎名さまですみなさん宜しくお願いします!」

 すると一番の強面が

「よろしくねー」とニッコリと挨拶してくる。いい事なんだけど逆に怖い。きっとかなりの打ち手に違いないと直感した。

「よろしくお願いします」

 こうして『ラッキーボーイ』での闇稼業が始まった。

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